Shovelog

Snow Lights Films

歯車

f:id:honday3:20210823174810j:plainTamagawa / Nikon FM2

8月24日。それが出たのは30数年ぶりだった。突然視野が欠けだしてギザギザの歯車が視界を遮る。芥川龍之介の「歯車」、いわゆる強烈な偏頭痛の前兆の閃輝暗点である。中学生の頃はよくなったもので、はじめてこれになった時は死ぬかもとパニックになった。朝、新聞を読んでいたら突然視野に歯車が現れて文字が読めなくなくなってしまい、その後すぐに強烈な頭痛に襲われて学校を休んだのを覚えている。その日、眼科の看護師だった母親に連れられて先生に診てもらい「閃輝暗点」は心配することはないという事で少し安心した。安心したけど「歯車」はその後も頻繁にやって来るようになり、授業中にも突然現れたりして彼を困らせた。しかし何度もなると慣れるもので歯車が出ると頭痛に襲われる前に保健室で寝る、という対処法を彼は編み出していた。そんなある日、いつものように歯車が発生して保健室で寝ているとやけに外が騒がしい。まだ少し頭が痛む中、そっと目を開けて見てみると、西側から入る眩しい太陽光でカーテン越しに見えたシルエットはどうやら健康診断の真っ最中であり、上半身ハダカの女子たちが先生の問診を受けている。気付かれないようにゆっくりと上半身を起こした彼は深呼吸をしてどうすべきか考えた。カーテンの隙間からこっそり覗くべきか大人しく寝ているふりをするか、布一枚の向こうは同級生のハダカを一気に拝める一世一代のチャンスである。


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