Shovelog

Snow Lights Films

歯車2

f:id:honday3:20210824163822j:plainWakabayashi Setagaya / Nikon FM2

女子の健康診断中の保健室で彼がどうしたのかは実はよく覚えていない。もしバレたら卒業するまで日陰生活を強いられ、一生助平な男の烙印を押されて生きていくことになろう。そんなネガティブな思いが頭の中で渦を巻きながらも欲望のままカーテンに手をかけた所までは覚えているけれど、その先がどうしても思い出せない。記憶を消してしまうくらいウブだったのだろうか。
今日、30数年ぶりに現れた「歯車」はまた彼をパニックに陥らせた。歯車をすっかり忘れていたのである。てっきり脳梗塞の前兆じゃないかと慌ててネットを検索して歯車の正体を思い出した。思い出した途端に中学生の時に見た保健室のカーテン越しの光景が目に浮かんだ。あの日も同じ西日が差す暑い日だった。そんな甘酸っぱさとほろ苦さと芥川も感じた絶望感が複雑に絡み合う中、とりあえずロキソニンを飲んで深呼吸をする。
人生も後半に来てあちこちカラダのガタが酷くなってきた。昨日も10年ぶりの友人と電話で話しながらのもっぱらの話題は病気自慢だ。そしてこの「歯車」は彼の息子にも継承されていった。


僕の視野のうちに妙なものを見つけ出した。妙なものを?――と云ふのは絶えずまはつてゐる半透明の歯車だつた。僕はかう云ふ経験を前にも何度か持ち合せてゐた。歯車は次第に数を殖やし、半ば僕の視野を塞いでしまふ、が、それも長いことではない、暫らくの後には消え失うせる代りに今度は頭痛を感じはじめる、――それはいつも同じことだつた。
芥川龍之介 歯車)

歯車に襲われ続けた芥川は最後には誰か僕を絞め殺してくれと、狂気に陥ってしまうのである。

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