Shovelog

Snow Lights Films

彼は誰時

f:id:honday3:20210928234104j:plainNishihara Shibuya / Nikon FM2

鼠色の雨の朝、私は急いでいた。満員だったけれど京王線の扉が閉まる寸前に飛び乗った。左脚で踏切り、右足で乗ったつもりだったけれど、雨で濡れた電車と靴は風呂場のように滑って電車とホームの間に右足が吸い込まれていった。たった20センチばかりの隙間が地獄の入り口、奈落の底へ突き落とされるように僕は堕ちていった。全てはスローモーションに感じ、途中で踏ん張ろうとするも掴めるような蜘蛛の糸もなかった。結局、腰まで落ちたところで両腕で電車とホームを掴み、私は地獄から這い上がった。かなり痛い。腕と腰を打ったけれどなんとか立ち上がれる。一呼吸おいて満員の車内に乗り込むが、見回すと乗客は何事もなかったようにスマホを見ている。私はジンジンと痛む腕を我慢してしかめっ面でつり革に捕まった。

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